風のたより

まいけるのつれづれ〜読書日記を中心に

色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年/村上春樹

自分が選んだ以上、後戻りはできない。
多崎つくるもその友人達も定められた場所で、それぞれの道を歩み続ける。
後戻りができない哀しみを胸に抱えながら。

この小説はある意味、村上春樹らしくなかった。スピーディな展開。いつも楽しんでいる遊びの比喩も少ない。でも、しっかり深みがある。東京、名古屋、浜松、フィンランドと物語は横断し、かつ哲学的だ。

個性的であろうとして自分を見失うより、自分が心地よいと思う方を選んでいけばいい。そうすれば自ずと個性は生まれる。そんな勇気をもらえる。

自分だけが傷ついているのではない。相手も同時に、あるいは違う相手を傷つけているかもしれない。

私が一番好きな場面はフィンランドで旧友に再会する場面。「すべてが時の流れに消えてしまったわけじゃないんだ」
どんな諦念が頭をもたげても、信頼とか希望という言葉を心のどこかで信じられるそんな気がした。

終点を迎え、あたたかい風がほんの少し吹いている。