風のたより

まいけるのつれづれ〜読書日記を中心に

海辺のカフカ下巻/村上春樹

ずっとずっとカフカ少年の孤独な魂を追いかけながら読んでいた。15歳の少年が本当の意味で強くなり、これから自分の旅を続けるために、必要だったこと。それがダイナミックな小説を通して語られていた。
自分を捨てたと思い込んでいた母を求めるカフカ少年。母には母の、姉には姉の、そして父には父の選ばなくては行けない道があった。
大島さんが男性に見えたり、ナカタさんが空っぽに見えたりしても、本質とは異なる。お椀山事件で、記憶と読み書き能力を失ってしまったのだ。人にはそれぞれの意思があり、背景があり、血が流れている。独断的偏見の目をクリアにするために、森に行き、内省的な時を過ごすべきなのかもしれない。

一番好きな場面は最後に佐伯さんと出会う場面。
自分が愛されていたことを感じ、自分の中に流れる血を実感すればきっとこれからも生きていける。

この小説の面白さを際立たせたの、ナカタさんと中日ドラゴンズファンのホシノさんだろう。ホシノさんが仕事をほっぽり投げて、ナカタさんに尽くし、ナカタ化していくところがいい!
アロハシャツのホシノさんが、大公トリオを聴き、ベートーヴェンに傾倒して、自分の半生を振り返り、石や猫に話しかけるさま。想像するだけで可笑しい。

真っ直ぐなカフカ少年の人生に幸あれ。
そう思いつつ、最後の頁を閉じた。