風のたより

まいけるのつれづれ〜読書日記を中心に

大事なことほど小声でささやく/森沢明夫

森沢明夫さんの作品二つ目。
今回も森沢さんにしてやられた。
スポーツクラブに集まる濃い人々のほのぼのエピソードですすめられる。
井上美玲の担当西山とゴンママの緊迫の一瞬。
そのあとのゴンママの一言。
落差の大きさがたまらなくいい。
頑張りすぎの井上美玲に与えらた休暇。
他人事なんだけどなんか嬉しい。
孤を好む、いや孤を強いられてきた不器用な国見俊介。彼の恋物語もいい。
お節介な仲間たちのおかげで彼に居場所が生まれてる。
極め付けは四海良一の蜻蛉。
読み進めるのも辛い夫婦と娘の物語。
死んだ心、枯れた心に
再び潤いを与える展開。
参った。

「一瞬のいまを、大切に生きる-。阿吽って、そういう意味なんだって、ママに教えてもらったんです」
ゴンママはナイスなキャラだった。

 

東京育ちの京都探訪/麻生圭子

昨年の3月の終わりに京都を訪ねた。
貴船神社の静けさ、鴨川沿いの満開の桜を堪能した。
麻生圭子さんは観光住人を自称する。夫婦で町屋を改築し、京都に住みながら、京都の伝統文化を味わい、紹介している。(当時)
私が大好きなさだまさしさんの歌にも京都や奈良が数多く登場する。化野、風の篝火、修二会。言葉て馴染んでいても、イメージすることは難しい。この本を読んでも然り。

元日の朝、いちばんに汲み上げる水を「若水」と言う。
京都の冬は山から、春は川下からやってくる。
五山の火は、ほたるの光のように儚い。

彼女の感性がとらえる京都は美しい。
また京都に行きたくなった。
できれば哲学の道を起点に疏水沿いに琵琶湖まで歩けたら素敵だ。

星野道夫と見た風景/星野直子 星野道夫

 

 

星野直子さんの本を開いた。星野道夫さんの撮ったアラスカの風景と直子さんの愛でる花の写真がそこにあった。
二人の出会い。二人が経験した自然との共生。
直子さんが初めて目にした空の芸術、オーロラ。
その感動とアラスカへの愛着の深まりがここに記されている。
野球が好きだった星野さんが、男の子が産まれたら、名前を飛雄馬にしようと言ったエピソードも面白い!星野飛雄馬か、、、。
子煩悩だった星野さんの素顔が見える本だった。

直子さんが育てていたイチゴが何者かに食べられ、代わりにきのこが置いてあった話。まるでごんぎつね!?

 

騎士団長殺し第2部/村上春樹

「ドン・アンナ」が登場してから、「ドン・ジョバンニ」(モーツァルト)の序曲を何度も何度も再生させながら読んだ。
ファンタジーでありながらファンタジーでない。絵を通して歴史に潜む真実みたいなものを語っている。
現実と非現実は曖昧で、存在自体も不確かである。
自分の中に沈思し、自分の本当の姿を見つけ、自分が欲していることを見つけていく。そんな話だった。
妻の懐妊は、1Q84の天吾と青豆を思い出した。1Q84はふかえりをなかだちにしていたけれど。
何と言ってもわたしと秋川まりえのからみが面白い。わたしとの繋がりでまりえの中の塊が溶けていくさまがいい。二人の時間をずっと見ていたかった。
暗黒の中でも、希望と信が仄かにたゆたう作品だった。

騎士団長殺し第1部/村上春樹

本棚に並ぶ「騎士団長殺し」が何か問いかけてる気がして、手に取った。
案の定、すぐにひきこまれた。1Q84の時と同じように。次第に勢いを増して。
謎がどんどん重なり、まだ謎は全然ほどけてはいないけど、まだ謎のままでいい。
特に惹かれるのは妹のコミ。「暗闇が手でそのまま掴めちゃいそうなくらい真っ暗なの」この比喩には痺れた。もう一人は秋川まりえ。
後半の展開が楽しみ。
村上春樹さんの魅力は。モノローグにある。内面をどこまでも掘り下げるから、自分の中にある何かにもカチンとふれてしまう。
この本も夜明け前に意識を集中させ、書いたのだろうか。小澤征爾さんを時々思い出しながら。

場所はいつも旅先だった/松浦弥太郎

松浦弥太郎さんの人生訓や生活の心得みたいな本を読んできたから、この本は大きく期待を裏切ってくれた。
若さに満ち溢れ、外国でも颯爽と生き抜く姿があった。彼女との出会い、別れ、憧れ、珍事件。羨望を感じるほどアクティブで勇猛果敢。
ヴィーテージジーンズを安く買い付ける話、古本屋仲間に助けられる話、彼女が車の中で音楽を聴かず、口笛でグレン・グールドのバッハを響かせる話。
ひとつひとつが面白い。
圧巻は山歩きに挑戦する話。
私も富士山で高山病になり動けなくなった。
山はまさに自分との闘い。気弱になったら終わり。楽しむすべを自分で見出すしかない。
風景と高山植物と仲間が癒してくれたけど。

無鉄砲時代の弥太郎さんも
魅力的!

 

#読書

ボクの音楽武者修行/小澤征爾

青年は原野をめざす。
小澤征爾さんの訃報が届いた。若い頃、この本がエネルギーを与えてくれた。小田実さんの「何でもみてやろう」とともに私のバイブルだった。
貨物船で2ヶ月かけて、ヨーロッパをめざす。見えてくる島に、燃えるような夕焼けにひとつひとつどきどきを感じながら。どきどきの瑞々しさが若さであり、エネルギーだ。
スクーターと日の丸で人とつながり、不安を自信に変え、やがては大きなコンクールで一等賞をとる。
才能は覚悟。昨日読んだ本の通りだ。
行き当たりばったりの旅が指揮者への道につながっていく。
尊敬するシャルル・ミュンシュの懐に飛び込み、カラヤンの弟子になり、バーンスタインの友となっていく。
ホームシックにかかり、家族に手紙を綴る。
3年の月日を経て日本に帰ってきた時の大いなる喜びが思い浮かぶ。

娘達にプロコフィエフの「ピーターとおおかみ」を聴かせた時、怖がって怯えた。あのアルバムは小澤征爾さんのCDだった。水戸の管弦楽団との演奏も何度か聴いた。

ラグビーを愛した指揮者。
指揮棒、いや身体全体でハーモニーを引き出した指揮者。
自分の筋肉の力を抜き切る状態をつくることが指揮の一つのテクニックと語る小澤征爾さん。
ゆっくりおやすみください。
今までお疲れ様でした。合掌。